バラエティーにとんだ魅力の宝石トルマリン
喜連川宝石研究所 所長 喜連川純氏著

◆ まずは華やかにカラーのお披露目から ◆
「せきとうおうりょくせいらんしーー」。
それなんですか…?思わず聞きたくなるリズミックな言葉。
そうです。
もう、みなさんご存じの、虹の七色の順序を間違いなく覚えるための、いわば、掛け算の九九みたいなものです。
漢字で書くと、赤橙黄緑青藍紫となります。
トルマリンにはこのレインボー・カラーのすべての色と、それぞれの色の淡いものから濃い色のもの、それに、その色と色の中間の色などがあり、これらの色を、中心から左右にグラデーションにならべていきますと、トルマリンだけで、すてきな虹色のネックレスができてしまうほどです。もちろん、無色や真っ黒のものもあります。
このように、トリマリンの色石のなかでも群を抜いて多くの色をもっている、いわば、色彩のデパートみたいな宝石なのです。
これらのトルマリンには、それぞれ女優さんに芸名があるように、その色にちなんだ別名があり、よくトルマリンとはまったく別種の宝石だと思われてしまうことがあります。
ちなみに、濃いピンクや赤いトルマリンは、ルビーのイメージからルベライトといい。
また、中国では、むかし高級官史の階級をしめすボタンとして使われていたので、壁璽(ビーシー)という尊重名でもよばれていました。
燈、黄、緑の色は、イエローとかグリーン・トルマリンとそのままよばれていますが、とくべつソフトで美しい緑の色をもつ、クロム成分のもには、クロム・トルマリンという名がつけられ、少し高級品扱いになります。
青は染料のインジコ・ブルーにちなんでインジゴライト。
赤紫は、おもにシベリアで産出したところから「シベライト」なーンて、ちょっとイージーと思えるネームングのものもあります。
ついでに、宝石としての価値はありませんが、無色のものはアクロアイト、黒のトルマリンはショールといっています。
◆ パライバ・トルマリン ◆
美しい色といえば、まず、近年、脚光をあびているブラジルはバライバ州の、サンホセドバタルア付近で産出されていたトルマリンをあげなくてはならないでしょう。
色は、トルコ石を透明にしたような明るい青から、青緑、それに緑色で、その美しい色を
だす着色成分は、しらべた結果、マンガン、それにトルコ石とおなじ銅によるものでした。
この石は、一九八九年(平成元年)頃から市場に出回るようになり、そのてり(光沢、きらめき)やいままでのトルマリンにはない新しい色にみな驚き、市場にデビューしたとたんにたちまち話題の宝石になってしまいました。
しかし、九十二年にははやくも鉱山は涸れ、いまはなったくといっていいぐらい、採れなく
なってしまったのです。
そのため、価格は急騰(きゅうとう)し、トルマリンらしからぬ、可愛げのない、ほんとうに
コレクターむきの、バブルのような、お値段になってしまいました。
この価格急騰の裏には、こういうおはなしも巷(ちまた)にながれております。
なんでも、ブラジルの鉱山担当の高級官史がドイツ系の人で、バライバ・トルマリンがもう
採れるみこみのないことをドイツのイーダー・オーバーシュタイン市の業者にもらしたのだ
そうです。
それを聞いたドイツの業者は、すべての原石を買い占め、それを少しずつ研磨して、値段を
吊り上げては市場にだしているのだそうです。
それが本当ならまさしく「ドイツの業者よ、おぬしも悪(わる)よのう…」です。
◆ その他の変わりだねトルマリン ◆
ちょっと、お手を拝借して、両手の親指と人刺し指をくっつけてみましょう。
おにぎりのような三角形ができましたね。トルマリンの断面ちょうどそのような形をしています。
そのおにぎりを真っ二つに切ったとしましょう。すると、おにぎりは外の海苔の黒、ご飯の白、梅干しの赤といういろどりになります。トルマリンの黒白赤の配色は見たことがありませんが、外側から内部にかけて、ピンク、白、緑、白。ふたたびピンクと五層になっているもの。ブラウンと赤。グリーンとピンクなど、自然の配色とは思えないぐらい楽しい組み合わせのもんがいろいろあります。
なかでも、内がわが赤で外が緑のものは、西瓜(すいか)を連装するところから、ウォーターメロンとよばれ、トルマリン・ファンに珍重されていますし、しかも、これらの結晶は、色の層がお菓子のバウムクーヘンのようになっていますから、金太郎飴のように、切っても切ってもずっと西瓜のようなパターンがでてくるのです。
このほか、薬のカプセルの、本体とふたの色が違うように、結晶の長手方向に二つ三つと色が変わっている、パーティ・カラード・トルマリンというものもあります。
また内部にストローのゆなチューブの包有物(インクルージョンといいます)がたくさん入っているため、カボション・カットに磨くとキャッツアイになるトッリマリンもあります。
しかも、いろいろな色のキャッツアイがあるので、お好みにあわせて楽しむことができるというわけです。
そうそう、ひかりの種類によって、色変わりをする、アレキサンドライトのようなトルマリンもありました。
名前がけっさくでカメレオナイトといいます。
さいごに、トルマリンの特性をおはなししますと、和名を電気石というぐらいですから、百ド近く加熱すると、電気(ちょっとむずかしいのですがピロ電気といいます)を帯びてきますし、また、わずかな衝撃でも圧電気を帯電する性質ももっています。このピロ電気と圧電気をエネルギーとしてとらえ、トルマリン・パワーで環境改善、健康促進に役立てようという
試みや商品が、現在、売り出されております。
私はまだ体験していないので、効果のほどはなんともいえませんが、いずれにしてもトルマリンは、バラエティーにとんだ宝石というだけではなく、物理的な面からみても、興味のつきない宝石といえるのでしゃないでしょうか。